LOGIN今も進行形で関係が続いていることを暴くには……
はっきりさせるには……奴らの現場を押さえ、証拠取りをするしかない。
平日に仕事を終えてからの尾行は忙しい俺には無理だし、希樹にしても できなくはないとしても翌日の仕事のことを考えると、負担が大きいはず。 それで俺は土・日続けて出張が入り、愛結と会えないという設定で 計画を進めることにし、希樹に翌日この案を打ち明けてみた。希樹の賛同を得て、俺と彼女は早速次の土・日、涼と愛結のふたりを
尾行することにした。土・日のどちらかでヤツらの尻尾が掴めればいいと思っていたのだが、
土曜日に早速愛結に動きがあったため、俺はすぐに希樹に連絡をした。 愛結が乗っている車には、わざわざ用事を作って平日の夜会いに行き、 彼女の愛車の底面にGPSを取り付けておいた。なので、追跡途中で見失ったとしても最終目的地は後で必ずわかるので、
追跡していても気持ちに余裕が持てるはず。 ◇ ◇ ◇ ◇ 希樹にはどの辺りに向かっているのか逐一連絡を入れつつ、 俺は愛結の後を追跡した。追跡しながら果たしてヤツらは今回会ってどうするのだろう?
キス止まりで済むのだろうか?そんなことを考えていた。
今頃、希樹はどんなことを考えながら車を走らせているだろうか!
街中ではなく山の方へ向かっているので、たぶんあの辺ではないかと
推測することができる。希樹にもだいたい自分の推測している場所辺りで集合な
……と再度連絡を入れておいた。予想通り愛結の車は六甲山牧場の辺りで動きが止まった。
10分後、希樹と俺も愛結の止めてある場所から少し離れた
場所で合流した。「残念だけど、やっぱり愛結と涼は会うつもりのようだね」と
希樹は言った。 「たぶんそうだと思うけど、愛結の会う相手が涼だとはまだ確定してないよ。 ……まだね」と、そんなふうに返した俺。
「子供の頃、日本に里帰りした時のことなんだけどね。 父さんと母さんが出かけていない日に昼寝から起きた僕は 、父さんのほうのおじいちゃんおばあちゃん、伯母たちが自分のことを話していたのを盗み聞きする形になって──自分が母さんの実子ではないことと、どうやら実母が父さんの親友とおかしな関係になったことが原因で、父さんと離婚することになったと知ったんだ。* 他にも大人たちはいろいろと話し込んでたんだけど、子供だった自分にはそれ以上の内容を心に受け入れるキャパがなくて、また自分の布団にもぐり込み泣きながら寝入ってしまった。 次に目を覚ました時は母さんが起こしに来てくれたところだった。 なんかね、その時母さんの顔見てほっとしたのを覚えてる。 いつだってやさしかった母さんが、本当の母親じゃないなんて絶対嘘だ。 うそだ、うそだって、ずっと胸の中で叫んでたんだよね。 ショックはショックだったけど、母さんの愛情を受けてきたこれまでを振り返ってみると、幸せな思い出ばかりだった。 実の子じゃないって聞いても、紛れもなく今までも今も幸せな自分がそこにいて──だから、ひとつも悲しむ必要なんかないって思った。 今日までそうだったように、明日も明後日も幸せな自分が容易に想像できて、あぁやっぱり僕って幸せで、今のままでいいじゃんって腑に落ちたんだよ。 これが……。 子供のクセにさ。 悟り? っていうのかなぁ、悟ってたわ。 きっと父さんと母さんが僕のこと大事に大事に丁寧に育ててくれたからだと思う。 そして僕の両親なら必要になったら必ずその時、僕に産みの母親のこともどうして僕がその人と別れて暮らすことになったのかも教えてくれるってそう思えたんだよね。 信頼? 僕、小さな時から父さんのことも母さんのことも
二輝は、息子の陸の誕生日を家族で祝った日の夜、帳が下りる頃になると、毎年欠かさず私を労ってくれた。 「今年も1年息子を大切に育ててくれてありがとう。 俺と息子が幸せな1年を過ごせたのは君のお陰だよ」って。 最初の頃は 「いいよぉ~そんなこと、わざわざ改まって言わなくても……」 なんて返してたんだけどね。 それでも毎年律儀に、私を気遣い労わってくれる二輝に、いつしか私もまた同じ台詞を返すようになっていた。「二輝、こちらこそ……私のほうこそ、この1年息子娘共々私たちを大切に思ってくれてありがとう。とっても私は幸せだよ」って。 ちゃんと真摯に夫の真心に向き合うようになった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 月日は流れ、陸が17才の年に夫の会社から日本に帰国せよとの辞令がくだり、帰国する日がやってきた。 陸の学校のことを考えるとほんとはもう1年待って日本へ帰れるとベストだったのだが――――まぁそんな上手い具合にいくはずもなく、さりとてここに息子だけを1年残していくのも不安だったため、家族全員での帰国を決めた。 とうとうこの日が来てしまった。 二輝と私とで決めていたこと、それは――陸に出生の秘密を打ち明けるのは息子が高校を卒業してからということ。 しかし、帰国命令で予定が変わってしまったため、二輝と話し合った結果、私たちは帰国する前に、陸へ真実を話すことにした。 ◇ ◇ ◇ ◇ 引越しの準備で慌しいなか、私と夫は陸に真実を話した。 それは辛い作業だった。 そして更に、私たちは陸の実の母親の仕出かしたことも話をした。 話さずに済むのならと、何度も私と夫で話し合ってきて出した結論だった。「ちゃんと話しておかないと、君が愛結から俺を盗ってしまったという悪い女になってしまうから」と、夫は言った。 陸のことを思うとどんなにショックを受けることか……。 すごく心配していたのだけれど、陸は意外なことを私たちに言った。「知ってたよ、随分前から」
「陸のことだけど、このままでいいのかな? もし私に遠慮してるとしたら……。 陸への対応に私のことは考えなくていいからね」 「ああ、ありがとな心配してくれて。 母さんからの手紙が来る度に、愛結からの息子に会いたいという嘆願の言葉が 綴られていて、少し罪の意識もあるにはあるけど……。 だからってまだ小さな子に、別に実の母親がいるって教えてしまって いいものかどうか悩ましいよ。 一度会わせてもその次は1年後か2年後か、俺たちのっていうか 俺の仕事の都合でいつ日本へ帰れるかわからない状況じゃぁね。 陸を苦しめるだけじゃないのかな。 君のことを実の母親だと思って幸せに過ごしている生活にだって、 何らかの波風は立つわけだし。 やはり息子が18才になるまでは愛結に会わせるわけにはいかないって、 そう考えてる。 もう母さんとも話し合ってて、そういう方向で進めてるんだ。 だまっててすまない」「ううん、そんなこと。 陸のことに関しては、あなたの思う通りにしてもらいたいって 思ってたけど、私もその意見に賛成。 陸にはもしかしたらちょっぴり恨まれるかもしれないけど、恨まれてでも 陸の心の安定と落ち着いた今の生活を守っていくのが親の務めだと思う。 陸が18才になって真実を知った時にどんな選択をするかはわからないけど 私じゃなくて愛結と一緒にいたい、愛結こそ本当の母親だからってことで私 の手から離れていったとしても、それはそれでよしとしようって、そういう 腹づもりでいるの。 それとね、こういう風に言いつつも、陸にどちらか一方の母親を選ばせる ようなことはしたくないなぁ~って思ってるの。 おかあさんが2人いたっていいんだしね。 陸が好きな時に愛結に会えるような環境にしてあげたいなって思うんだ
二輝の赴任先に息子、陸《りく》を伴い海外での3人の生活が 始まった。 二輝も自分も信頼を寄せていた身近な人間からこっぴどく裏切られ、 深い傷を心に負った。 けれどその後、私たちは一緒に暮らすようになってからも お互いにこの件について突き詰めて話すことはなかった。 二輝と愛結の間にできた陸は、1才になるかならないうちに一緒に暮らすように なったので、私のことは実の母親だと信じている。 3人でのほっとできる寛ぎと癒しのある暮らしは、傷付いた私の心の傷を 薄く小さくしてくれた。 だから二輝が負ったであろう傷もきっと……と、私は考えている。 私たちは、2年に1~2度くらいの頻度で日本へ帰っている。 日本では夫と私の実家に滞在し、どこにも行かずすぐに赴任先へ 戻るようにしている。 そう、愛結に陸を会わせないよう、私たちは慎重に行動していたのである。 そのため、愛結含め佐倉家の人たちは、ここ日本で、自分たちのすぐ側に いながら1度も息子(孫)に会うことは叶わなかった。 結婚後3年と少しの後に娘が産まれた。 息子を丁寧に育てたくて、ホントはもう1年先で自分の子供を と考えていたのだけれど……。 二輝から『もう充分陸は希樹の息子で、元気一杯の良い子に育っているし、 兄弟はあまり年が離れすぎないほうがいいよ』と諭された形で、娘を授か った。 自分のお腹を痛めた子ができたら、陸のことを邪険にしてしまうんじゃない のかとか、そんな心配もあったけれど、それは取り越し苦労で終わった。 陸を愛しいと思う気持ちはなくならなかった。 私は自分の心変わりのないことを確認し、ほんとにほんとに心から ほっとした。 愛すべき夫、そして息子に待望の娘たちに囲まれて、私は本当に幸せな 月日を過ごした。
思い立ったが吉日── 夏の暑さがピークを迎え、セミが賑やかにやかましいくらい鳴き続けている中、 俺は佐倉家の門をくぐった。 すぐに佐倉家に出向き、この数か月考えに考え抜いた結果、やはり愛結との結婚はできないと伝え、息子の親権はいただくと主張した。 反対するなら裁判までするつもりがあることも伝えた。 自分には潤沢な収入があり、また育児環境も整え、これまで息子を成育して きているので、おそらく負けることはないだろうと、こちら側にかなり有利で あることを伝えた。 裁判をしたとしても、到底自分達が有利な立場に立てるわけもなく、また裁判することで娘の良からぬ記録が残ることにも思い至ったようで、裁判してもただ自分達が困ることになるだけの佐倉家の3人は、俺の主張する言葉に反論すべき言葉を見つけられなかった。 しかし、やはり子を産んだ母親だからか、子供は絶対渡さないと 愛結が抵抗を試みてきた。 このまま裁判をしても全然負ける気はしなかったが、子供は絶対渡さない といつになく喚く愛結の姿を見て、俺の中の何かがカチっと凹ん場所に きっちりと嵌った。 俺は3人の目の前に愛結と涼の浮気の動かぬ証拠を出して見せた。 「やっぱりお前、浮気してたのか!」愛結に平手打ちする父親。 泣き出しててオロオロする母親。 「こんなことをしていたなんて、なさけない。 私たちは娘の育て方を間違えたようだ。 ほんとにすまない」と父親が謝ってくれた。 「二輝くん、ごめんなさい。 ほんとに申し訳なくてごめんなさい。愛結は私たちで説得します。 ちゃんとしたあなたが孫を育ててやってください。 娘に孫を引き取る資格なんてないから」 そう、母親は言った。「二輝、いつから? それ知ってたの? 疑惑持ってた頃からもう知ってたの?」
私は涼と離婚したあと、二輝のいる地元に帰った。 離婚がはっきりと進みそうになった頃、二輝にはちゃんと連絡をしていた。「あいつは懲りずにまたやらかしたか!」 それが二輝の第一声だった。 私の夫、涼がやらかした一連の行為《青井恵美との不倫》は、 私が涼を捨てることを…… 二輝が涼から私を奪うような形になることを……何の躊躇いもなく、小さな罪悪感を吹っ飛ばしてくれる出来事となった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 希樹から離婚が成立したと連絡がきて、少なからず驚いてしまった。 いずれ離婚することになるだろうことはわかっていたものの、 思っていたより早かったから。 そしてその理由がいつの間にか俺の知っていた愛結との浮気の件だけでは なく、新天地でできた新しい女のせいでもあると聞いたからだ。 全く涼の奴、何やってんだか。 新しい不倫相手は最初は希樹に接触してきたらしい。 希樹が相手にしないとわかると次は休日に直接自宅を急襲。 呼び出して話をした涼にも相手にされないとわかると、谷村の両親の家へと 直談判に行ったのだとか。 妊娠しているため、随分と強気な振る舞いだったようだ。 「二輝との将来の誓いがなかったら、不安過ぎて発狂していたかも」って 希樹が教えてくれた。 俺のことが心の支えだったって。 俺も同じだ、希樹。 ひとりで今の状況は耐えられなかっただろうなと思う。 おそらく、子供のことを考える余裕などもなく、愛結と子供の前から 逃げ出してたわ。 俺は子供を産んだわけじゃないけど、生後1か月過ぎて 2か月めからずっと一緒に暮らしてみて実感したことがある。 可愛い、ただただ我が子はかわいかった。







